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Tailwind CSSの事例から見るAIの現状:我々が直面している「知の共食い」

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最近、Webのあり方が劇的な速度で変わっていく中で、どうしても拭いきれない「ある違和感」について、整理しておきたいと思います。

タイトルは 「Tailwind CSSの事例から見るAIの現状」。今まで様々な恩恵を受けてきたインターネットという場所が、今まさに直面している「共食い」の構造についてのお話です。


LLMEOという言葉に潜む「自己矛盾」

最近「LLMEO(LLM Engine Optimization)」という言葉を耳にするようになりました。LLM(大規模言語モデル)に自分のサイトの内容を正しく理解させ、AIの回答の中に採用してもらうための施策です。

かつてのSEOは、ユーザーを「自分のサイトに連れてくる」ためのものでした。しかし、LLMEOが目指すのは「LLMの中で回答を完結させる」ことです。皮肉なことに、AIに対して最適化をすればするほど、ユーザーがサイトを訪れる理由は失われていく。

これって、自分の手で自分のサイトの息の根を止めているような、そんな奇妙な感覚に陥りませんか?


クローリングとスクレイピング、そして拒絶

この状況に対し、CloudflareなどはAIクローラーによるスクレイピングの拒否を提唱し始めました。ここで、普段混同しがちな2つの言葉を整理しておきます。

項目クローリング (Crawling)スクレイピング (Scraping)
目的検索エンジンのように「地図」を作ることサイトの中身を「データ」として抽出すること
結果リンクが貼られ、サイトへ誘導される中身だけ奪われ、AIの回答として消費される

AIの学習は、事実上の巨大なスクレイピングです。リンクを貼って元の著者に敬意(トラフィック)を払う検索エンジンとは違い、AIは「中身」だけを奪って、自分の言葉としてアウトプットします。その結果、多くの場合、制作者にはほとんど利益もトラフィックも還元されない、という状況が生まれつつあります。


Tailwind CSSが突きつけた「拒絶」の理由

象徴的なのが、人気CSSフレームワークであるTailwind CSSの決断です。

AIに「何か作って」と頼むと、高確率でTailwindを使ったコードが返ってきます。それだけ学習されている証拠ですが、開発元のTailwind Labsは、AIがドキュメントを読みやすくするための機能をあえて導入しない(プルリクエストを見送る)という選択をしました。

その理由は、あまりに切実です。 AIが便利になりすぎて公式サイトへのアクセスが激減した結果、創業者の Adam Wathan 氏によれば、ドキュメントサイトのトラフィックは 2023 年初頭から約 40% 減少し、それに伴い収益はおよそ 80% 落ち込み、エンジニアリングチームの 75% を解雇せざるを得なくなったといいます。

知識を共有すればするほど、共有した本人が困窮していく。これが、2026年現在のWebが抱える残酷なバグです。


知識の源泉が枯れたとき、AIはどこへ行くのか

Stack Overflow のような技術系Q&Aサイトは、AI登場以降アクセスや質問数が大きく減少しています。Wikipedia も、検索結果で AI の要約が前面に出ることで、従来ほど「まず訪れる入口」ではなくなりつつあります。もし、「AIに奪われるだけなら、もう公開するのはやめよう」と筆を置いてしまったら、その後はどうなるのでしょうか。

ここで懸念されるのが 「モデル崩壊(Model Collapse)」 です。 人間が書いた新しい知見がネットから消え、AIが「AIの書いた記事」を学習し始めると、情報の多様性は失われ、間違いが再生産され、知能は劣化していきます。

ナレッジ共有サイトが消滅したとき、AIは自ら問題を提起し、自ら解決の道を記すようになるのでしょうか?それとも、ただ過去の遺産を食いつぶして終わるのでしょうか。


救済か、共生か:GoogleやVercelによる新たな動き

この絶望的な状況の中で、わずかながら新しい動きも出始めています。Tailwind CSSの窮状が明らかになった後、Google AI Studio(Gemini API チーム)や Vercel、Gumroad などの企業が、Tailwind CSS のスポンサーになることを相次いで表明しました。

これは、プラットフォーマー側が「良質なコンテンツ(学習元)が消滅することは、自分たちのAIの死も意味する」と気づき始めたサインかもしれません。

  • 直接支援モデル: 広告やアクセス数に頼るのではなく、AI企業がインフラや資金を直接提供し、開発を継続させる。
  • 新たなエコシステム: 「AIが便利にする側」と「AIに知識を供給する側」が、搾取ではなく契約に基づいた共生関係を築けるかどうかが試されています。

最後に

「誰かの役に立ちたい」という純粋な動機で支えられてきたインターネットの善意が、AIという効率性の塊によって食い潰されようとしています。

僕はこの違和感を無視したくない。AIを否定するのではなく、どうすれば「価値を生む人間」に正当な対価が戻り、知の循環が守られるのか。今回のTailwind CSSの事例は、僕たちに「Webの再定義」を迫っている気がします。